NPO法人における役員の任期と登記の特殊性②

前回の記事では、NPO法人のような確定任期の法人における任期の特殊性について書いてきましたが、今回は、登記における特殊性について書いていきたいと思います。

理事の登記?理事長の登記?

NPO法人の定款においては、「理事長は、この法人を代表し、その業務を総理する。理事長以外の理事は、法人の業務について、この法人を代表しない。」などと定められるケースが多く、この規定に基づいて理事長を法務局に登記することになります。

この理事長を登記する根拠としては、組合等登記令2条2項4号で「代表権を有する者の氏名、住所及び資格」を登記しなければならないとされているためです。しかし、資格の名称については「理事長」ではなく「理事」として登記されます。

これは、端的に言ってしまえば、理事長という呼称はあくまで法人内部の呼称に過ぎず(「代表理事」といった呼称を使用しているNPO法人も存在します。)、NPO法で定められた機関や名称ではないためです。

例えば、この登記の見本では、「理事長」甲野太郎さんが令和7年6月1日に就任したので、6月10日登記の申請を行いましたが、登記される役員の資格は「理事」ということです。
つまり、登記の意味合いとしては、理事長や代表理事などその呼び方はともかく「代表権のある理事」として甲野太郎さんを登記しているということになります。

そして、これが次の問題点を引き起こす原因となります。

この「代表権のある理事」について、もう少し深掘りしてみましょう。
そもそもNPO法では「理事」が、NPO業務を代表すると規定されています。

(理事の代表権)
第十六条 理事は、すべて特定非営利活動法人の業務について、特定非営利活動法人を代表する。ただし、定款をもって、その代表権を制限することができる。

ですので、NPO法人では理事を全員登記することが原則となります。
ここで、重要になってくるのが、定款で定められた「理事長は、この法人を代表し、その業務を総理する」という規定の意味合いです。

NPO法の歴史を振り返りますと、NPO法が成立して以降、定款をもって代表権の制限はできるが「理事の代表権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない」(旧法16条2項)とされていたため、上記のような理事長に関する定款規定があっても、他の理事に対する代表権の制限は法人内部の問題とされていました。そのため、従来は理事長のみを登記する取扱いとはならず、就任した理事全員を登記し、任期が終了するタイミングでは、全員について重任等の変更登記を行っていました。
ところが、平成24年4月1日に改正NPO法が施行され、定款による代表権の制限について「善意の第三者に対抗できない」という規律が廃止され、登記によって代表権の制限を公示する方法が採用されました(組合等登記令別表のNPOの登記事項に「代表権の範囲又は制限に関する定めがあるときは、その定め」が追加)。そのため、改正法施行後は、理事の代表権の制限は登記した後でなければ、第三者に対抗できないということになりました。

そこで、理事の代表権の制限に関する具体的な登記の方法として、①一旦、理事全員を登記して、代表権を有しない理事に対し「理事○○○○は、法人を代表しない」などと登記する形と、②代表権を有しない理事をそもそも登記しない形が考えられるわけですが、①のような迂遠な方法をとるのではなく、②の方法が採用され、現在に至ることになります。

就任年月日の記載は、任期の出発点となるのか?

ここで、次の問題が生じるわけですが、平成24年NPO法改正前は、理事全員が登記されていたため、登記されている就任の年月日は、任期の出発点となったわけですが、現在は、代表権のある理事長などを登記するNPO法人がほとんどなので、登記簿に記載されている理事の就任年月日は、理事長としての就任年月日ということになります。

以下、理事の任期を「2年」、理事・理事長に選任されてすぐに就任承諾したと仮定して、まず、1一つ目のケースを見てみましょう。

1 登記簿に「重任」と記載されているケース

重任(じゅうにん)」というのは、登記手続独特の用語で、役員が任期満了により退任することになるが、ただちに再任したようなケースを指します。

これが一番スッキリするパターンです。想定されるのは、任期が満了する令和7年5月31日までに社員総会で理事を選任し、その後に理事会を開いて理事長を選任していたケースとなります。
このケースであれば、理事の任期と理事長の在任期間の出発点のいずれも6月1日となり、ズレることはありませんので、登記されている「令和7年6月1日」が任期の出発点と考えることができます。

ちなみに、この場合の次期の理事改選に関しては、2年の任期が満了する令和9年5月31日までに社員総会を開催して理事を選任し、理事会で理事長を選任すれば「令和9年6月1日重任」という形で、2週間以内に法務局へ重任の登記申請を行う必要があるということになります(法務局へ申請できるのは、理事の新しい任期がスタートした令和9年6月1日以降ということになりますので、仮に5月中に登記申請した場合、受理されませんのでご注意を!)。

2 登記簿に「就任」と記載されているケース

「就任」と記載されているケースでも、理事として就任した日と理事長として就任した日が同一の日付であれば問題は生じません。

しかし、次のようなケースはどうでしょうか?

上記のようなケースでは、理事の任期は6月1日からスタートしていますが、理事長を選任する理事会の開催が遅れ、6月10日理事長を選任し、就任の承諾が得られたような場合が想定されます。
この場合、登記簿に記載されるのは、理事長として就任した「令和7年6月10日就任」の日付となります。
理事長には独自の任期という概念はありませんので、理事の任期と理事長の在任期間は、いわゆる親亀・子亀のような関係となり、理事長としての在任期間は、理事の任期に引っ張られる形になります。
すると、理事としての任期の出発点である令和7年6月1日から任期の計算をしなければならないところ、登記されている日付からは任期の計算ができないという事態が発生します。

これが、《「役員の任期は、○年とする」と定款で定められている法人の皆様へ》の記事で述べた

 登記簿に記載されている理事の就任年月日が任期の出発点にならない場合がある。

という問題点になり、選任された役員の任期はいつからいつまでなのか」を議事録でハッキリとさせておきましょうという提案理由の一つにつながるわけです。

また、これは、理事として選任された後、理事長に選任されるという形態の法人である医療法人や社会福祉法人においても、登記簿に記載されている理事長の就任年月日が理事としての就任年月日と一致せず、任期の出発点にならないという同様の問題は発生します(医療法人は、確定期限の任期ですが法改正により理事の権利義務承継規定が設けられ、社会福祉法人は、法改正により確定期限の任期ではなく定時評議員会の終結までという形に姿を変えているので、NPO法人ほど登記手続が問題になることは少ないと思われます)。

議事録に役員が退任する日を記載する意味

「役員の任期は、○年とする」と定款で定められている法人の皆様へ》の記事で述べているもう一つの提案である

 議事録には、現在の役員が任期を終える時期を明記しておく。

という点をもう少し詳しく書いていきたいと思います。

登記手続では、代表権のある理事が辞める場合、その退任を証明する書類を添付しなければなりません(組合等登記令17条1項)。任期の途中で辞任する場合であれば「辞任届」が該当しますが、任期満了の場合には、どのような書類を添付しなければならないかが問題となります。

株式会社においても登記手続では、役員の退任時にそれを証明する書類を添付しなければならず(商業登記法54条4項)、株式会社の場合における登記先例ですが、改選の際の株主総会議事録に、任期満了により退任した旨の記載がある場合には、これで足りる(昭和53年9月18日民四第5003号回答)とされています。一方で、議事録に任期満了により退任した旨の記載がない場合、①役員の任期を証明する定款と②退任日を明らかにする定時株主総会議事録(場合によっては、役員が選任された際の議事録も)が必要とされています。これは、株式会社では、定款で定める任期、決算期、定時株主総会を開催する時期などの記載と株主総会議事録から退任時期の特定ができるために認められているものです。

では、NPO法人の場合どうでしょうか?

1 登記簿に「重任」と記載されているケース

この場合は、理事の任期と理事長の在任期間の出発点が同じですので、仮に議事録に退任時期が明記されていなくても、定款で規定する任期によって退任時期を特定することができます
NPO法人の理事長の変更登記では、役員の選任方法などを確認するため、定款を必ず添付することになりますので、特に問題は生じないケースであると考えられます。

2 登記簿に「就任」と記載されているケース

登記簿の就任年月日から2年で任期が満了するケースであれば問題ないのですが、就任年月日が任期の出発点になるとは限らないので、定款を添付しても退任時期を特定できないケースがあります
この場合、仮に前回理事に選任された際の議事録を添付したところで、前回の議事録に任期がいつからいつまでなのか明記されていなければ、任期の出発点がわかりませんので、退任時期がわかりません。
そうすると、今回登記の申請に添付する議事録において「理事○○○○が令和7年5月31日をもって任期満了退任するので」などと記載する方法によらざるを得ないと考えられます。

このように、任期が到来しても理事長が再任するケースであれば、問題は少ないと思われますが、急遽理事長が交代することになるなど、問題は突然発生することがあります。
そのような場合に備えて、役員が再任する場合も含めて日頃から議事録上に役員の退任する時期を明記することをオススメしています。

登記手続特有の問題点でわかりにくい部分があると思いますが、長々と失礼いたしました。
次回は、「理事長が重任する場合でも登記手続に潜む落とし穴!」についてご紹介していきたいと思います。

(つづく)