代表取締役の「予選」に関する誤解

前回の記事《NPO法人における役員の任期と登記の特殊性③》でNPO法人の理事長を任期満了前に予選する場合の問題点についてお話ししましたので、今回は、株式会社の代表取締役を「予選」する場合の誤解についてお話していきたいと思います。

「予選」決議についての再確認

前回の記事で述べましたが、「予選」決議とは、役員について、あらかじめ選任すること、例えば、6月1日から就任する取締役を5月15日の株主総会で前もって選任するような場合であり、次のような場合には、予選決議が有効であるとされています。そして、このような取扱いは、代表取締役を予選する場合も同様であると考えられています。

株式会社においては、「一般には、前任者の任期満了までの期間が比較的短く予選につき合理的理由があり、かつ、その期間中に新株発行等により株主の権利に著しい変化がないような場合には、有効であるとされ、例えば、就任日の1か月程度前に予選決議をすることは差し支えない」(商業登記ハンドブック【第5版】P384参照)とされています。

ここで、この予選に関する株式会社の取扱いに関しては、1つ大きな問題があります。

「株主総会で取締役を予選した上、改選前の取締役が新代表取締役を予選することについては、株主総会において取締役が全員再選されて取締役に変動を生じない場合には、登記実務上許容されているが、取締役に変動を生ずる場合には、認められていない」(先例百選P110、商業登記ハンドブック【第5版】P390参照)

これは、昭和41年の株式会社に関する先例で、簡単に言ってしまえば、「決議時点と効力発生時点で取締役に変動がある場合は代表取締役の予選は認められない」といったような話なのですが、例えば次のようなケースにおいて、先例の結論だけ一人歩きしたような形で誤った解釈がなされることがあります。

【前提】
・取締役会設置会社
・取締役A、B、C、D 代表取締役A
・任期 令和6年3月~令和8年3月開催予定の株主総会終結時まで
・事業年度 1月1日~12月31日(株主総会は3か月以内に開催)

【事例①】
・令和7年3月20日 
 令和7年3月31日付けで、Aが取締役を辞任することにより代表取締役を退任することになるため、取締役会において、令和7年4月1日付けで後任代表取締役Bを選定し、同人が就任を承諾
・令和7年3月31日
 取締役A 辞任
・令和7年4月1日
 代表取締役B 就任の効力発生

この事例で、代表取締役Bの選定「決議時の取締役はA、B、C、D」である一方、選定の「効力発生時の取締役はB、C、D」となるため、取締役会の構成員が変動しており、予選は認められないという誤った解釈がなされることがあります。

昭和41年先例の射程範囲

ここで、前回の記事に引き続き、昭和41年の先例をもう一度掘り下げてみましょう。

この先例は「合理的な期間(例えば1か月)内であれば、取締役会において次期の代表取締役をあらかじめ選任することができる」とするものですが、事案は次のようなものです。

昭和40年6月10日の定時株主総会において、2か月後の昭和40年8月10日に任期満了によって退任することとなる取締役全員の後任者を予選したところ、その全員が再選され、いずれも次期の取締役に就任を承諾した。さらに、代表取締役もその資格を喪失して退任することになるため、同日に取締役会を開催して後任者を予選したところ、現在の代表取締役が次期の代表取締役に再選され、就任を承諾した。

先例の回答の主眼は、予選決議と効力発生までの期間を問題とするもの(2か月という期間が合理性を有するか)であると考えられますが、この先例の解説の中で、取締役会の構成員に変動を生ずる場合についての検討が行われており、変動を生ずる場合には予選不可という考えが示され、その後の登記実務もこれに従っている形になります。
これを現在の株式会社に当てはめて考える場合、注意すべき点があります。

①当時の商法256条は、「取締役ノ任期ハ2年ヲ超ユルコトヲ得ズ」「定款ヲ以テ任期中ノ最終ノ決算期ニ関する定時総会ノ終結ニ至ル迄其ノ任期ヲ伸張スルコトヲ妨ゲズ」とされていた点
②本事案の会社は、6月10日の定時総会終結時ではなく、8月10日に任期満了とされているため、定款に任期を定時総会の終結時までとする規定を設けておらず、取締役の任期は確定期限である「2年」であったと考えられる点

このように、この先例は現在の株式会社で多く採用されている任期の運用と事情が異なり、取締役の任期をまたぎ「任期満了『前』の取締役が、任期満了『後』の次期代表取締役を選定する場合の決議の有効性」を問題にしているものです。
その結果、先例のように取締役の任期をまたぐような代表取締役の予選決議が有効とされるためには、構成員の変動を来してはならないという結論に至ります。

事例への当てはめ

事例をもう一度確認してみましょう。

【前提】
取締役会設置会社
・取締役A、B、C、D 代表取締役A
任期 令和6年3月~令和8年3月開催予定の株主総会終結時まで
・事業年度 1月1日~12月31日(株主総会は3か月以内に開催)

【事例①】
・令和7年3月20日 
 令和7年3月31日付けで、Aが取締役を辞任することにより代表取締役を退任することになるため、取締役会において、令和7年4月1日付けで後任代表取締役Bを選定し、同人が就任を承諾
・令和7年3月31日
 取締役A 辞任
・令和7年4月1日
 代表取締役B 就任の効力発生


上記事例は、3月20日の取締役会決議時点と4月1日の就任の効力発生時点で取締役Aの変動が生じているものの、取締役の任期は令和8年まであるため、取締役の任期をまたぐような代表取締役の予選決議ではないということになります。
すなわち、上記事例のようなケースは昭和41年先例の射程範囲ではないという結論になります。
これは、次のような事例においても同様です。

【前提】
・事例①と同じ

【事例②】
・令和7年3月20日 
 取締役会において、令和7年4月1日付けで増員代表取締役Bを選定し、同人が就任を承諾
・令和7年3月28日
 取締役D 辞任。臨時株主総会でDの後任のEを取締役に選任し、同人が就任を承諾
・令和7年4月1日
 代表取締役B 就任の効力発生

※ 取締役Eが代表取締役Bの選定決議に参加できないことから、予選決議を問題視する見解もあり得るが、新任の取締役就任以後に改めて取締役会を開くことも可能であるため、3月20日の取締役会決議の効力を否定する理由にはならない。

事例①・②は、先例のように任期満了前に取締役全員が再選されることを条件に代表取締役の予選決議をしたと解されるような条件付き決議ではなく、取締役会の決議自体は何ら条件をつけることなく有効に成立しているものであり、単に代表取締役選定の効力発生に期限を付けているだけということになります。
(他の注意点として、仮に3月20日の取締役会決議時点で、まだ取締役に就任していないEを代表取締役に予選するとした場合、そもそも取締役会での議決権がないような者を代表取締役に選定することになり、「取締役の中から代表取締役を選定する」という会社法の原則を否定することになってしまうため、そのような予選決議は認められていませんので注意してください。)
ちなみに、平成26年の東京法務局管内の打合せ会になりますが、法務省民事局商事課から上記事例①②のようなケースは、昭和41年先例の射程外であり、受理可能である旨の見解が示されております。

以上のことから、取締役会において代表取締役を予選する場合、

取締役の任期をまたぐような代表取締役の予選決議でなければ、昭和41年先例の射程範囲外となるため、予選決議時点で①取締役に就任している者の中から代表取締役を選んでいるか、②取締役会の成立要件を満たしているかどうか、③決議に付された期限が合理的な範囲内であるか、という点から取締役会決議の有効性を判断すれば構わない。

ということになります。

現在の株式会社においては、ほとんどの会社で「就任後●年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで」とされていますので、定時株主総会で後任の取締役を選任し、総会終結後の取締役会で代表取締役を選定するという形が一般的であると考えられます。そのため、任期をまたぐような代表取締役の予選決議を行うことは通常少ないと思われます。
しかし、一部の会社で任期を決算期などと連動させる形で「3月31日まで」等といったような確定期限で定める会社を見かけることがありますので、現在の株式会社で昭和41年先例の射程が及ぶのはこのような確定期限で任期を定めている会社が主な対象になると考えられます(NPO法人の予選決議に関する前回記事参照)。
仮に、取締役の任期が満了する定時株主総会終結前に取締役会を開催し、任期満了後の後任代表取締役を選定するような決議をした場合は、昭和41年先例の射程内の予選決議となり、取締役の構成が変動するかが決議の有効性に関わってきますので、注意が必要です。